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引越し侍の見積もりで、荷物より先に自分の気持ちを整理していた話

引っ越しの準備をする女性
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知らない番号が怖かった私が、引越し侍で「比べて選ぶ側」に戻れた朝の話

引っ越しの準備をする女性

今朝、カーテンのすき間から入ってきた光が、いつもより白くて、部屋の空気もなんだか乾いていて、コップの水が一口目から「冬だな」って味がした。洗濯物は昨夜のうちに畳んだはずなのに、ソファの背もたれに引っかかったままの靴下が一枚だけ残っていて、私はそれを見て「私の生活ってこういうところがある」と思いながら、でも別に拾わないまま、スマホの通知を確認した。

通知は、ほぼ何もない。
……のはずだったのに、今日は違った。知らない番号の着信履歴が、画面の上から下まで、にょきにょき増えていた。

昨日の夜、私は「引越し侍」で引越しの一括見積もりを出した。


引越し侍は、引越しの条件を入力すると複数の引越し業者から電話やメールで見積もりの連絡が来て、料金やサービスを比較できる仕組みのサイトだ(しかも24時間いつでも無料で使える、と公式も言っている)。


しかも引越し侍には「一括見積もり」と「予約」という、似ているようで違う2つのサービスがあって、前者は“まず相場を知る/比較する”ため、後者は“希望業者を選んで予約まで進めたい人向け”という説明になっている。昨日の私は、迷いながらも前者を選んだ。比較って言葉のほうが、まだ決めきれない私を許してくれる気がしたから。


…こう書くと、すごく合理的で賢い行動に見えるんだけど、実際の私は、合理性よりも「今この部屋から逃げたい」みたいな気持ちに背中を押されていた。

引越しを決めた理由は、すごく立派なものじゃない。
駅から家までの道で、いつも同じスーパーの惣菜を買って、同じ信号で止まって、同じマンションのエントランスで、同じように鍵を探す。

そういう“同じ”が、ある日急に、胃の奥に砂を入れられたみたいに重く感じた。仕事も将来も人間関係も、自分磨きだって、たぶん全部が一気にしんどいわけじゃなくて、ほんの少しずつ「ここにいる自分」を擦り減らしているだけなのに、私はそれを“引越し”という大きな言葉でまとめて片付けようとした。

昨日の夜は、布団に入る前に、引越し侍の入力フォームを開いて、
「現住所」「引越し先(ざっくり)」「荷物の量」「希望日」…と、淡々と入力した。


正直、個人情報を入力するのって気が引ける。だけど、見積もりを正確に出すには住所や電話番号が必要で、避けて通れない作業だ、と引越し侍の解説にもある。
だから、入力した。ためらいながら、でも、入力した。

そのとき私の中で浮かんだ、誰にも言わなかった本音がある。
「これで、いよいよ引越しが現実になっちゃう。現実になったら、戻れない」
もっと言うと、「引越しって、人生の“更新”じゃなくて、“通知”なんだ。やりますよって他人に宣言するやつ」みたいな、変な怖さ。

そして、送信ボタンを押した数分後から、スマホが震えはじめた。
最初は、「あ、早い」と思った。次は、「え、こんなに?」となって、最後は「もうやめて」となった。

1つ目の揺れ:知らない番号が、部屋に入ってくる感じ

引っ越しの準備をする女性

今日実際に起きた小さな出来事は、これ。
朝の身支度をしている間に、知らない番号からの着信が次々に入って、私は歯ブラシをくわえたまま、洗面台の前で固まった。

知らない番号って、それだけで心拍数が上がる。
私は普段、宅配の不在着信ですらちょっと怯えるタイプで、番号を検索して「営業」って出たら、なかったことにしたくなる。なのに今日は、見たことのない番号が、同じテンポで、何度も。


スマホが震えるたびに、私の部屋のドアを、誰かが外からノックしてるみたいだった。

引越し侍の仕組み上、見積もり依頼後は各業者から電話またはメールで連絡が来る。
頭ではわかっていた。むしろ、それが便利なんだってことも。


でも、体がついてこない。わかってるのに、怖い。

そこでまた、本音が出た。
「安くしたいって言ったの、私じゃん。なのに、交渉の入口で泣きそうになるの、情けない」
自分で選んだのに、受け止めきれない。そういうの、私、ちょいちょいある。

それでも、着信は鳴る。
通知の赤い点が増えるたびに、私は“引越しのために比較してる私”じゃなくて、“誰かに追いかけられてる私”みたいな気持ちになっていった。

2つ目の揺れ:見積もりって、値段だけじゃなくて「私の生活」を査定される

昼休み、私は結局、ひとつだけ折り返してしまった。
「はい、〇〇です」って言った自分の声が、電話越しにやたらと大人っぽく聞こえて、ちょっとだけ腹が立った。私は別に大人っぽくなりたいわけじゃなくて、ただ、丁寧に断れる人でいたいだけなのに。

相手はすごく手慣れていて、荷物の量や、エレベーターの有無、階段の幅みたいなことを、テンポよく確認してきた。
私はそれに答えながら、ふと、変な違和感に襲われた。

引越しの見積もりって、料金の話のはずなのに、私の暮らしの輪郭をどんどん抜き取られていく。
「冷蔵庫は何リットルですか?」
「ベッドは分解できますか?」
「段ボールは何箱くらいになりそうですか?」

…いや、わかる。必要な質問。プロだもん。
でも、私の中では、その質問が「あなたの生活って、どれくらい重いんですか?」って聞かれているみたいに響いた。

そしてまた、誰にも言わなかった本音。
「私の部屋、意外と“荷物の重さ”でできてるんだな」
仕事の資料、読みかけの本、捨てられない手紙、もう着ない服。
全部、私のせいでそこにある。なのに、私はそれを「運ぶからいくら」って数字にされると、ちょっとだけ傷つく。自意識過剰ってわかってるけど。

「わかる…」って言ってくれる人、たぶんいる。
引越しって、荷物を運ぶイベントじゃなくて、“今の生活を一度ぜんぶ棚に出す日”なんだよね。

3つ目の揺れ:断ることが怖い私が、いちばん怖かった

引っ越しの準備をする女性

見積もりは、たしかに比較のため。
複数社から取って、相場を知って、納得して決める。それが正しい。
そして、見積もりを取ったあとに断るのも、普通のことだ。引越し侍の解説でも、見積もりキャンセルは通常無料で、ただ事前連絡は必要、というスタンスが書かれている。

なのに私は、断ることが怖かった。
「電話をかけてきた相手の時間を奪った」
「検討しますって言ったのに断るの、感じ悪い」
「断った瞬間、私の評価が下がる」
…誰の評価? どこで? 何点満点で?
自分でツッコミを入れたくなるくらい、妄想がふくらむ。

でも、その怖さの正体は、たぶん“相手”じゃない。
私が怖いのは、断ることで自分の中の「引越しする/しない」を確定させてしまうことだった。
引越しをするなら、荷造りをする。住所変更をする。役所に行く。各種手続き。お金。時間。
引越しをしないなら、この部屋に残る。残るって決める。
どっちも、地味に重い。地味に、人生。

だから私は、決めないまま、宙ぶらりんでいたかった。
見積もりの比較という名目で、決断を先延ばしして、でも「ちゃんと動いてる私」という顔だけはしていたかった。
……自分で書いていて、ちょっと恥ずかしい。

後半で、今日だけの小さな気づき。
それは、「私は引越しが怖いんじゃなくて、“連絡の波”に飲まれるのが怖いんだ」ということだった。

引越し侍のFAQには、連絡が多くて迷惑に感じる人がいることへのお詫びページがあって、仕組みや注意点が説明されている。
つまり、私が感じた“しんどさ”は、私だけの特殊な弱さじゃない。
(もちろん、だからって電話が平気になるわけじゃないけど。)

そして私は、今日の夕方、ひとつ小さな行動をした。
メモ帳アプリに「連絡はメール希望」「電話は19時以降なら可」「訪問見積もりは土曜午後」って、短い文章を作って、次に申し込むときのために保存した。
備考欄に「連絡はメールのみ希望」と書く対策も紹介されていて、私はそれを“ただのテクニック”じゃなくて、“私の境界線”として受け取りたかった。

引越しって、生活を動かす行為だけど、同時に「他人に入ってきてもらう行為」でもある。
見積もりの電話、訪問、段ボール、作業員さんの靴下の音。
それを受け入れるためには、まず自分の中に線を引いていい。
「私はここから先は疲れるから、ここで一回止まるね」って。

正直、今も、スマホが鳴るたびに少しビクッとする。
だけど、今日の私は、昨日の私よりほんの少しだけ、受け身じゃない。
“選ぶ側”に戻ってきた感じがする。完全には戻れないけど、片足だけでも。

引越し侍は、比較して安くするための道具だし、上手く使えば心強い。
でも私にとって今日いちばん大きかったのは、値段の比較じゃなくて、「私が自分の連絡手段を選んでいい」と思えたことだった。

この部屋を出るかどうかは、まだ決めていない。
決められない自分も、少しだけうるさい。
けれど、決められないままでも、できることはある。
“自分の生活を守りながら進める”っていう、地味な工夫。

……ねえ、あなたも、知らない番号が続くとき、ちょっとだけ心がざわつきませんか。
そのざわつきって、ただの気のせいじゃなくて、もしかしたら「ここから先は丁寧に扱って」っていう、自分からの小さなサインなのかもしれない。

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