「読み放題」がうれしいのに、なぜか息が詰まった夜の話(楽天マガジン)

夜の空気が、昼の疲れをそのまま連れて帰ってくるみたいに重くて、駅から家までの10分がいつもより長く感じた日でした。
玄関の鍵を開ける手がちょっとだけ鈍くて、靴をそろえる気力も中途半端で、部屋の明かりをつけた瞬間に「うわ、今日も“生活してる感”が薄いな」と思ってしまう、あの感じ。こういう日は、おしゃれな丁寧さより、コンビニの袋のガサガサした音のほうが妙にリアルで、私の暮らしの輪郭がそこにあるようで、少しだけ安心します。
暖房を入れるほどでもないけど、手先が冷えていて、マグカップにお湯を注いで、インスタントのカフェオレを溶かしながら、スマホに通知が溜まっているのを横目に見ました。
返信すべきメッセージ、明日の予定、誰かの幸せそうなストーリー、年末っぽい「来年はこうしたい」みたいな宣言。見てるだけで気持ちが散らかっていくのに、散らかった気持ちを片付ける体力は残っていない。
そんなとき、私はだいたい“すぐ結果が出ないこと”に逃げたくなる癖があって、今日はそれが、雑誌でした。
楽天マガジン。12,000冊以上が読み放題ってやつ。私みたいな「情報は好き、でも本屋に行く元気はない」人間には、かなりちょうどいい避難所です。…ただ、今日の私は、その避難所でうれしいはずなのに、なぜか息が詰まりました。
①エレベーターで聞こえた「誰かの順調」が、急に刺さった
今日の小さな出来事は、本当に小さくて、たぶん誰に話しても「そんなこと?」って笑われるレベルです。
帰宅してエレベーターに乗ったとき、途中の階で同じマンションの女性が乗ってきました。たぶん同世代。コートの袖からのぞく手がきれいで、紙袋をひとつ抱えていて、香水がほんのりして、なんとなく“今日は誰かに会ってきた人”の匂いがしました。
エレベーターって狭いから、沈黙がやけに大きくなるじゃないですか。
その人のスマホが少し鳴って、画面をチラッと見た瞬間だけ、私は見ないふりをしたのに見えてしまったんです。メッセージの文面は読めないけど、通知の相手の名前の横に、ハートの絵文字がついていました。
それだけ。
それだけなのに、胸の奥で「うっ」と何かが鳴って、私の中の嫌な部分が起き上がりました。
誰にも言わなかった本音は、これです。
「いいな、順調そう。…私の今日、誰にも必要とされてない感じする」
ほんと、性格が悪い。わかってる。相手は何もしてない。私が勝手に比べて、勝手に凹んでる。
でも、こういうのって、夜に強くなるんですよね。
昼間は「私は私」って誤魔化せるのに、部屋に帰ってドアが閉まった瞬間に、比べる相手がいなくても比べてしまう。
わかる…って言われたら泣くくらい、私はこういう自分が嫌いで、でも止められないです。
②12,000冊の中で、いちばん読んだのは“自分じゃない人生”だった

部屋に着いて、コートを脱いで、ソファに沈んだまま楽天マガジンを開きました。
読み放題って、便利なんですよ。気になってた雑誌を試し読みするように開けるし、荷物にもならないし、ページをめくる指が疲れたらすぐ閉じられる。
本来なら、私の生活を少しだけ整える味方のはずでした。
でも、今日の私は、最初から生活系の雑誌も、仕事の雑誌も、趣味の雑誌も、どれも開けなくて。
なぜか恋愛特集っぽい見出しがあるものばかり、無意識にタップしていました。
恋愛のテクニックとか、会話術とか、相手の心理とか、そういう「正解を手に入れれば勝てる」みたいな空気のもの。美容でもダイエットでもなく、ただ“関係性の攻略”の匂いがするページ。
読みながら、私はずっと落ち着かなかった。
知識は増えていくのに、心はちっとも満たされない。むしろ、読み終わるほど「私、何してるんだろう」が濃くなっていく。
そのときまた、誰にも言わなかった本音が浮かびました。
「本当は、これを読めば何かが変わるって信じたいだけ。変わらない自分から目を逸らしたいだけ」
言葉にすると痛い。痛いけど、たぶん正しい。
楽天マガジンの“読み放題”って、良い意味でも悪い意味でも、逃げ場が無限にあるんですよね。
12,000冊以上って、優しさでもあるけど、私みたいに揺れている夜には、選択肢が多すぎて、余計に自分が薄くなるときがあります。
「あれも読める」「これも読める」って思うほど、私は“いまの私に必要な一冊”を選べない。
選べないのは、雑誌じゃなくて、自分の気持ちなのに。
③スクロールを止めたら、部屋の静けさが戻ってきた
途中でスマホを置いて、カフェオレがぬるくなっているのに気づきました。
窓の外は静かで、冷蔵庫の音がやけに大きくて、年末の空気が部屋の隅に溜まっているみたいでした。
私はそこでやっと、今日の違和感の正体に触れた気がしました。
私、楽天マガジンで雑誌を読んでいたというより、
“誰かの人生のハイライト”を集めて、勝手に自分に当てて、勝手に傷ついていたんだと思います。
エレベーターの人のハートの絵文字と、雑誌の「うまくいく方法」と、SNSの「幸せ報告」を、全部同じ棚に並べて、
その棚を眺めながら「私はどれも持ってない」って確認してしまっていた。
ここで前向きに「気づけてよかったね!」って言いたいところなんですけど、
正直、そんなに綺麗な話でもなくて。
気づいた瞬間、私はちょっとだけ恥ずかしくなりました。
“満たされなさ”を埋めるために情報を漁って、逆に自分を空っぽにしていく感じ。
賢くなっているようで、ただ心が疲れていくやり方。
でも、ひとつだけ小さな変化がありました。
楽天マガジンで、いつもなら「おすすめ」や「ランキング」から無限に漂流するのに、今日は一回、そこを閉じて、検索窓で「暮らし」と打ちました。
そして、タイトルが派手じゃない雑誌をひとつだけ開いたんです。
キラキラしてない、特別な人の話でもない、日々の小さな工夫や、部屋の空気の話が載っているもの。
読んでいるうちに、さっきまで私の中で暴れていた“比べる心”が、ほんの少しだけ静かになりました。
たぶんそれは、雑誌がすごいというより、私がやっと「今日はそういう刺激が欲しい日じゃない」って認められたから。
読み放題って、たくさん読むための機能でもあるけど、私にとっては逆で、
“いまの自分に合わない情報を取らない”って選ぶための場所にもなりうるんだなと思いました。
それでも、完全に落ち着いたわけじゃないです。
エレベーターの人のハートの絵文字は、いま思い出しても少しだけ刺さるし、
「私の今日、薄いな」って感覚も、きっと明日になったらまた戻ってくる。
ただ、前みたいに、刺さったまま無限スクロールで麻痺させるんじゃなくて、
「刺さってる」って自分でわかってあげる時間を、ほんの数分でも作れたのは、今日の私としては珍しい出来事でした。
読み放題の中で“何を読むか”って、結局、“どんな自分でいたいか”に繋がってしまうときがあります。
キラキラを追いかけたい夜もあるし、攻略法が欲しい夜もあるし、誰かの人生を覗きたい夜もある。
でも、今日みたいに、覗いた分だけ孤独が濃くなる夜もある。
ねえ、あなたはどうですか。
なんでも手に入るみたいに見える画面の中で、逆に息が詰まってしまう瞬間って、ありませんか。
そのとき、あなたは“次のページ”に逃げますか、それとも、いったん閉じますか。





