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新生活セールで変われる気がした夜、部屋も気持ちも整えきれないままの私へ

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なんとなくしんどい夜に見てしまう新生活セール、買えば変われる気がする理由

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仕事帰り、駅前のローソンの自動ドアが開いた瞬間にあたる、あの少し冷たい空気が、今日は妙に気持ちよかった。

夜の九時を少し過ぎていて、レジ横の揚げ物の匂いと、柔軟剤みたいな香りが混ざった店内で、私はカゴも持たずにうろうろしていた。

買うつもりだったのはサラダとヨーグルトくらいだったのに、気づけばスイーツの棚の前で立ち止まっていて、スマホの画面にはAmazonの「新生活セール Final」のページが開きっぱなしだった。

2026年の開催は4月3日0時から4月6日23時59分までで、先行セールは3月31日から始まっていたらしい。

ポイントアップキャンペーンも同時に走っていて、対象は家具や家電だけじゃなく、日用品や食品までかなり広い。春って、桜より先に、こういう画面のオレンジ色で季節を知らされるのかもしれない。

帰って、玄関にパンプスを脱ぎ散らかしたまま、ベッドの端に座ってコートだけ先に脱いだ。

部屋は朝のままで、クッションは床に落ちているし、昨日開けた入浴剤の袋もテーブルの端に置きっぱなしで、なんだか、自分の生活っていつも「今から整います」という手前で止まっている。

ちゃんとして見られることには、わりと慣れている。受付に立てばそれっぽく見えるし、姿勢と愛想と少し丁寧な言葉で、だいたいの一日はなんとかなる。

でも、家に帰ってからの私は、ちょっと笑えるくらい雑で、靴下も裏返しのまま洗濯機に放り込むし、メイクを落とす前に横になって、天井を見ながら十五分だけのつもりで動画を開いて、そのまま三十分くらいなくしてしまう。

新生活セール、と名前がつくものを見るたびに、少しだけ胸の奥がざわつく。新生活なんて、別に始まっていないからだと思う。引っ越しもしていないし、転職もしていないし、恋人ができたわけでもない。

ただ四月になって、街だけが勝手に新しくなっていく。真っ白なスニーカーを履いた学生っぽい子とか、まだ硬そうなリクルートスーツとか、ドラッグストアで新しい化粧水をじっと見ている人とか、そういうものを見ていると、自分だけが去年の続きみたいで、変な気持ちになる。

なのに、セールのページを見てしまう。

安くなった電気ケトルや収納ボックスやタオルセットを眺めていると、買えば少しは生活が変わる気がするから。

そういうの、ある。部屋が片づかないのは収納のせいかもしれないし、朝うまく起きられないのは寝具のせいかもしれないし、なんとなくしんどいのは、ちゃんとしたマグカップを持っていないからかもしれない、みたいな、かなり無理のある希望に一瞬だけ本気になる。

自分で書いていてちょっと笑うけれど、たぶん買い物って、物を増やしているようで、そのときだけは言い訳を減らしてくれる。

今回のAmazonの「新生活セール Final」は、300万点以上が特別価格の対象で、4月4日正午からと、4月5日正午からの二回、24時間限定の厳選日替わりセールもあるらしい。そう聞くと、必要なものを今のうちにという空気になる。

けれど私が気になってしまうのは、洗剤やティッシュより、フェイススチーマーとか、ちょっといいヘアアイロンとか、誰に見せるわけでもないのに欲しくなる美容家電のほうで、そういうところが本当に、自分でもわかりやすい。

暮らしを整えたいと言いながら、結局「少しでもましな自分」に近づけそうなものから先に見てしまう。

この前、アプリで何度かやりとりしていた人のプロフィール写真を、寝る前にもう一回見てしまった夜があった。特別好きだったわけじゃないのに、返信が途切れたことだけが、妙にひっかかっていた。

選ばれなかった、というほどの関係でもないのに、そういう小さいことが、夜にはちゃんと棘になる。そういう日にセール画面を見ると、買い物かごの中が、少しだけ自尊心の避難所みたいになる。

これ買ったらもっとちゃんと暮らせそう、これ使ったら少し垢抜けそう、これで朝の顔が変わるかも、みたいなことを静かに並べて、誰にも言わないまま安心する。かなり小さい恥ずかしさだけど、たぶん私だけじゃない気もしている。

SNSを開くと、春らしい部屋、春らしいメイク、春らしい彼氏、みたいなものが順番に流れてくる。たまたま見た動画の女の子が「新年度なのでお部屋全部整えました」と笑っていて、白いラグも、透明の収納ケースも、朝日が入る窓も、どれもきれいすぎて、画面を閉じたあとに自分の部屋の生活音だけが残る。

冷蔵庫の低い音と、遠くのバイクの走る音と、洗っていないマグカップ。ああいうとき、置いていかれているのは人生そのものじゃなくて、気分なんだと思う。でも、気分に置いていかれるのがいちばん地味につらい。

4月6日まで、という期限にも少し弱い。ずっと迷っていたものに言い訳がつくから。

今日までなら、今だけなら、という言葉は、自分を甘やかすためというより、自分を許すためにあるのかもしれない。何かを買うことで全部は変わらないと、さすがにもう知っている。

それでも、詰め替え用のシャンプーを少し良いものにするとか、くたびれたタオルを替えるとか、ずっと欲しかったドライヤーをやっと買うとか、そういう小さい更新には、思ったより救われる夜がある。派手な人生じゃなくても、生活の手触りだけ少し変わる夜。

ただ、画面を閉じたあとに残る違和感もある。私は本当に部屋を整えたいんだろうか、それとも、整って見える自分を欲しがっているだけなんだろうか。新生活って、何を新しくしたら始まるんだろう。

部屋、仕事、恋愛、肌、気分。そのどれも中途半端に気になっていて、そのくせ、どれから手をつければいいのかは、いつもよくわからない。

カートに入れたままのものを見返していたら、そこに並んでいたのは、生活用品と美容家電と、なぜか少し高い入浴剤だった。ちゃんとしていたい気持ちと、もう今日は何も頑張りたくない気持ちが、全部その中に入っている感じがして、少しだけ可笑しかった。

こういう夜に欲しいのは、劇的な変化じゃなくて、明日の自分をぎりぎり嫌いにならずに済むくらいの小さな何かなのかもしれない。

ベランダの外を見たら、洗濯物を干しっぱなしにしている部屋が、うちだけじゃなかった。

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