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帰宅後の前髪が全部を物語る夜に見つけた静音ハンディファンの誘惑

さわやかな風に吹かれる女性
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5月の帰り道、ハンディファンを買うかどうかで少しだけ大人の顔をしてしまった夜

風に吹かれる女性

5月8日の夕方、駅のホームに立っていたら、まだ夏じゃない顔をした風がスカートの裾をふわっと持ち上げてきて、「いや、今のは春ですって言い張るにはちょっと暑くない?」と、誰に向けるでもなく心の中で小さく文句を言っていました。

電車の中は冷房が入っているような、入っていないような、でも隣の人のジャケットの匂いと自分の首元の汗だけは妙にはっきりしていて、私はスマホを片手に、楽天で見つけたハンディファンのページを何度も開いていました。

\5/9まで★限定半額クーポンで1,980円!/

この文字、ずるいです。

買う理由を探していたのに、向こうから「今じゃない?」って言ってくる感じがして、ちょっと負けた気持ちになります。


「まだ早いよね」と言いながら、汗はもう待ってくれない

会社を出たのが18時23分で、ビルの自動ドアが開いた瞬間、外の空気がもわっと頬に触れました。

昼間は「今日、過ごしやすいですね」なんて受付でにこやかに言っていたのに、帰り道の私はもう、前髪の根元と首の後ろの湿度に全神経を持っていかれていて、人って数時間でこんなに季節への態度が変わるんだなと、少しだけ自分に引きました。

「まだ5月だし、ハンディファンなんて早くない?」

朝の私ならそう言っていたと思います。

でも夕方の私は、ドラッグストアの入り口で涼んでいるふりをしながら、実際は冷風の通り道に立っているだけの人になっていました。

これ、地味に恥ずかしいんですよね。

買い物する気がある顔で棚を見るけれど、目は全然商品を追っていないし、頭の中では「このまま何も買わずに出るの、店員さんにバレてるかな」とか考えている。

しかもそういう時に限って、店内BGMが妙に明るくて、私だけが夏の入り口で負けているみたいな気持ちになります。

ハンディファンって、数年前までは「持っている人、準備いいなあ」くらいの存在だったのに、いつの間にかバッグの中に入れておくものとして、リップやハンカチと同じくらい現実味を帯びてきました。

美容の仕事をしていた時も、飲食の現場にいた時も、暑さって本当に顔に出るんです。

いくら笑顔を作っても、汗で前髪が割れていると、心の余裕まで一緒に割れて見える気がしてしまう。

もちろん誰もそんな細かいところまで見ていないのかもしれないけれど、本人だけは知っているんですよね。

「あ、今の私、ちょっと余裕ない顔してる」って。

そういう時に、バッグから小さいファンを出して、首元に風を当てられる人って、なんだか生活を少しだけ味方につけている感じがします。

大げさに快適になるというより、「あ、私、今ちょっと助かった」くらいの小さな救い。

その小ささが、逆に欲しくなります。

半額クーポンの文字に弱い私と、しっかり者ぶりたい私

参考サイトのハンディファンを見ながら、私はいつもの自分内会議を始めました。

「1,980円ならありじゃない?」
「でも去年のどこかに似たようなのなかった?」
「いや、あれ充電の持ちが微妙だったよね」
「そもそも今年の夏、絶対暑いよね」
「絶対って言ったけど、私、気象予報士でも何でもないよね」

自分へのツッコミが忙しい。

ひとり暮らしの部屋で、スマホを持ったままベッドに腰かけて、買うか買わないかでこんなに真剣になれるの、ある意味平和なのかもしれません。

でも、こういう小さな買い物ほど、その日の疲れがにじみます。

高いコートを買う時より、1,980円のハンディファンを買う時のほうが、なぜか生活感が出る。

「必要だから買う」のか、「疲れているから欲しくなっている」のか、自分でも少しわからなくなるからです。

画面には、手に持ちやすそうなサイズ感のファンがいて、卓上でも使えそうで、通勤中にも、メイク直しの時にも、洗面所で髪を乾かす前の一瞬にもよさそうに見えました。

こういう商品ページって、見れば見るほど、未来の自分が勝手に涼しい顔をし始めるんですよね。

朝、メイクが終わったあとに首元へ風を当てている私。

駅まで歩いて、信号待ちでそっと取り出している私。

婚活アプリで会う前に、トイレの鏡の前で前髪を直しながら「頼む、今日だけは湿気に勝たせて」と小声で念じている私。

いや、最後のはちょっと切実すぎますね。

でも本当に、恋愛前の汗ってやっかいです。

好きな人に会う前とか、初対面の人とお茶する前とか、心は緊張しているのに、身体だけが勝手に季節に反応して、顔まわりがじんわりしてくる。

「緊張してるのかな」と思われるのも嫌だし、「暑がりなのかな」と思われるのも別に悪いことじゃないのに、なんとなく自分の中で小さく負けた気がする。

人に言えない感情って、こういうところにあります。

可愛く見られたいというより、崩れていく自分を自分で見たくない日がある。

それを防ぐために、ポーチの中のリップを塗り直したり、ハンカチで首元を押さえたり、そして今年はそこにハンディファンが加わるのかもしれない。

そんなふうに考えると、これはただの暑さ対策というより、外でちゃんとしている私をそっと支える小道具なのかなと思えてきます。

ただ、半額クーポンという言葉には、やっぱり弱いです。

「限定」と言われると、急に背中を押される。

5/9までと言われると、今日の私に決定権が渡された気がする。

別に誰も急かしていないのに、スマホの中の文字だけが、妙にこちらを見てくる。

こういう時、私はだいたい一度カートに入れます。

そして閉じます。

また開きます。

色を見ます。

レビューを見ようとして、途中で疲れて、なぜか別の人の購入品ブログを読んでしまいます。

あれ、なんなんでしょうね。

買う前に情報を集めているつもりが、気づけば知らない誰かの「届きました♡」に励まされている。

アメブロの購入品記事って、あの独特の距離感があって、部屋着で友達の家に寄ったみたいな感じがします。

「これよかったよ〜」と言われると、広告よりも少し肩の力が抜けて、私も使っている場面を勝手に想像してしまう。

そういう流れでハンディファンを見ると、急に生活に近づいてくるんです。

夏フェスに行く人だけのものじゃなくて、満員電車で少し汗ばんだ人のもの。

おしゃれなカフェのテラス席で涼む人だけのものじゃなくて、スーパー帰りに玉ねぎと牛乳を持って腕がちぎれそうな人のもの。

美容に気を使う完璧な人だけのものじゃなくて、夜に洗顔する前、しばらく床に座って「お風呂めんどくさい」と言っている私のもの。

そう考えたら、少し笑ってしまいました。

バッグに入れる風は、誰のためのものなんだろう

風に吹かれる女性

翌朝のことを考えてみました。

メイクをして、日焼け止めを塗って、髪を整えて、玄関で靴を履く時に「あ、ファン持った?」と確認する自分。

それが少し未来の当たり前になるのかもしれないと思うと、なんだか季節が一段進んだ感じがします。

5月って不思議です。

カレンダーの上ではまだ春の余韻があるのに、昼間の日差しだけが先に夏の服を着ている。

夜になると湿った空気の中に初夏の気配が混じって、コンビニのアイスケースの前で立ち止まる時間が少し長くなります。

私はたぶん、暑さそのものよりも、暑さで余裕がなくなる自分が苦手なのかもしれません。

汗をかくことも、前髪が乱れることも、誰に怒られるわけでもないのに、それだけで一日を雑に扱ってしまったような気持ちになる日があります。

ハンディファンを持つことが、そんな自分を変えるわけではないです。

急に丁寧な暮らしの人にもならないし、朝から白湯を飲んでストレッチして、涼しい顔で出勤する女にもならないと思います。

たぶん明日も、靴下を片方だけ探して、洗濯物の山を見ないふりして、バッグの中でリップと鍵が喧嘩している音を聞きながら家を出ます。

それでも、そのぐちゃっとした生活の中に、小さな風がひとつ入っているだけで、少しだけ自分に優しくできる瞬間があるのかもしれません。

「買う?」とスマホに向かって聞いてみても、返事はありません。

ただ、カートの中に入ったままのハンディファンが、明日の私の首元あたりで静かに回っているような気がしました。

その風が、本当に必要なのか、それとも今日の疲れが欲しがっているだけなのか。

まだ、決めきれないまま画面を閉じました。


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